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ヨーロッパ旅行小説と語学

欧州旅行の体験記を冒険小説風にしてみました。語学についてのあれこれも書いていきたいと思います。

第12話『出国審査・・・衝撃の秘密』

ヨーロッパ旅行小説(旅立ち編)

<前回までのあらすじ>

世界の車窓に憧れて旅に出ることを決意した、元秘密営業部員の栗金団じゅんたろう。かつて所属した組織からの執拗な妨害をことごとくはねのけ、ついに空港のセキュリティゲートを潜り抜けることに成功した。そして今、出国審査が始まろうとしている・・!

 

少し離れた場所に、係員が座るカウンター様式の審査場が見えた。 

(あれが噂の出国審査カウンターか・・・) 

旅に出る前に色々と調べて、そこで行われる質問とか、その内容についてしっかり予習してきた。 

「先に行くわよ」 

横に並んだジョリーはそういって、列の最後尾まで歩き出した。 

「ま、まてよ」 

旅の初心者である私は、その後を追った。

前を見ると、私とジョリーの前には、数人の乗客がカウンターの前に並んでいるだけだった。 

「これなら数分で通過できそうね」 

振り返りながら、ジョリーは微笑んだ。 

「そんなものなのか。審査ってのは。」 

「そうよ。自国をを出国するときは、たいていはほぼスルーパスって感じね。外国の入国審査はもう少し時間がかかるけど。でも目的地がヨーロッパで、入国するのが日本人だったら、こことそんなに変わらないから、たいていは大丈夫のはずよ」 

「それなら助かるな」 

出国審査が楽なのは助かるし、入国審査が楽なのはもっと助かる。

だが問題は英語だった。 

「入国管理官に英語で質問されるらしいが、けっこう難しいのかい?」 

「いえ。決まりきった内容よ」 

「それが分からなくてね。ガイドブックを読んでもなかなかやっかいそうだ」 

「相当な英語音痴ね。よくそれで海外に行こうって気になったわ」 

「俺もそう思う」 

ふふふと笑った。 

「何だか楽しそうね」 

「実は秘策が一つあって」 

「どんな?」 

「ハングリーというやつに会えと言われている」 

途端にジョリーの顔色が変わった。 

「なんですって?」 

「部課の同僚にイギリスに詳しいやつがいてね。そいつが言うんだ。入国審査で困ったときはハングリーを呼び出せと。そしたらすべては上手くいくってね」 

「・・・・その同僚って誰?」 

「左門半蔵、通称サモハンだ。俺の旅行のプランの全てを企画してくれた、旅の達人だ」 

「・・・サモハン」 

ジョリーは再び指でニコチンを吸う仕草を始めた。

緊張が高まった時、必ずこうする癖があった。 

「それで、あなたはハングリーに会って、どうしろって言われてるの?」 

私は肩をすくめた。 

「はっきりとは聞いてない。ただ挨拶をして済めば良し、もし問題があれば、別室で取り調べかもしれないかもと。きっとそのハングリーってやつは、入国審査官の身分を偽って、何かの作戦を実施中なのかもしれないな。一応、俺は会社の人間だったから、そのへんの縁で口利きして通してくれるのかも」 

 

「・・・ハングリーは組織の一員だった・・昔はね」 

 

「え?」 

「最強の秘密営業部員だったわ。でもある時、組織から追放された。理由は分からないわ。それ以来、ハングリーは世界各地を渡り歩くさすらいの旅人となった。ずっと組織に恨みを持っていて、報復の機会を伺っている。そしてそれは内部の反逆者の協力で、今まさに実行されようとしているの・・」 

「ちょっと待てよ」 

私はあわててジョリーの発言を止めた。 

「ということは何かい?俺は組織に報復しようとしてる、そのハングリーっていう名前の元秘密営業部員に会えって勧められてたってのか?」 

ジョリーはまじまじと私の顔を見つめて言った。 

「どうやらそのようね。あなたにそれを勧めた同僚サモハンは、きっとハングリーの計画に加担する一味のメンバーに違いないわ」 

「あいつが・・」 

スキンヘッドだが、すごく気のいい大男の友人の顔を思い浮かべた。

まるでそういう風に見えなかった。 

「あなた、課長に狙われてるんでしょ。組織乗っ取りの計画を察知して。あなたの課長こそが、ハングリーと組んでる組織の反逆者グループの親玉じゃない?」 

「それが理由だったとしたら、俺もずいぶん舐められたもんだ」 

課長の顔を思い浮かべた。

カマキリのような細面の顔面に「冷酷」という言葉が最もお似合いのように感じてきた。 

「いいさ。ハングリーに会うよ」 

ジョリーはニコチンを吸うふりをしていた指の動きを止めた。 

「正気なの?」 

「もちろん。俺は逃げも隠れもしない。そして聞いて見るさ。いったい俺に何の用だって。俺をさっさと通して、イギリスに入国させろってね」 

ジョリーは呆れた表情をして首を大きく振った。 

「ハングリーの秘密営業部員としての実力は世界最高レベルよ。それに邪魔者は何人たりとも許さないわ。きっとサモハンがあなたにハングリーと会えと勧めたのも、計画に協力させる気だったからよ。それを聞かれたら、あなたなんと答えるつもり?」 

「もちろんノーだ。俺にはやることが山ほどある」 

「もしハングリーが通さないって言ったら?」 

「簡単さ」 

私はふふふと微笑んだ。 

「ぶっ飛ばす」 

グッと右の拳を前に突き出した。  

「信じられないわ・・・」 

「俺はとにかくヒースローに行くよ。そして入国審査を受ける。そこできわめてフレンドリーに審査官とおしゃべりをかわして、パディントン駅に向かう。これで決まりさ」 

真剣なまなざしでジョリーは私を見つめた。 

「いいこと。ハングリーはあなたの思ってるような簡単な相手じゃないわ。それは私が長年彼を追いかけてきたから、よく分かってる。ここで告白するけど、私が会社から姿を消したのは、組織の密命で裏切り者を抹消するためだったの。ハングリーはそのターゲットナンバーワンだったわ。でもずっとその居場所がつかめなかった。いまようやくあなたの説明を受けて、はっきりしたわ。ヒースローには私が行く。あなたはここで家に戻ってちょうだい」 

「そうはいかないな」 

「なぜ?」

 

「なぜなら、俺には世界の車窓が待っているから」

 

「な・・・」 

「悪いなジョリー。あんたの気持ちは嬉しいが、俺には俺の夢がある。そしてやり方も。あんたやハングリーほど腕っぷしはないが、その代わり、ここで勝負する覚悟は持ってるよ」 

コンコンと頭を指で叩いた。 

「もしどうしてもハングリーをぶちのめしたいっていうのなら、俺が相手した後に好きなだけやってくれ。ちゃんと連絡を入れて、やつを箱に詰めてクール宅急便で送ってやるよ。もしくは俺と一緒に行くかだ。でもそうしたら、きっとヒースローでは警戒されて、やつは姿を消すだろうな。なにせあんたは、長年やつを追ってきて、やつもそのことを知ってるはずだから」 

「たしかにね・・」 

「だったら話は早い。ここでお別れだ。ほら、前を見なよ。もう出国審査の順番は次だぜ」 

ジョリーの前に並んでいた乗客の審査が終わろうとしていた。 

「本当にいいのね?」 

「ああ、かまわんさ。ところで、あんたの本来の目的地は?」 

「ローマよ。そこでハングリーを待ち伏せする計画だったわ」 

「ローマにはアントニオがいたっけな」 

「懐かしい名前だわ」 

「まさか、やつもターゲットというんじゃないだろうな」 

「それはどうかしら」 

ふふ、とジョリーは笑った。

ようやくジョリーらしい笑顔が戻ってきた、と感じた。 

(あんたはそういう不敵な笑顔が一番似合うよ) 

もしアントニオが組織の裏切り者だったとしても、なんの不思議もない。

そしてやつが消されても、何の感慨も湧かなかった。

でもそれは違うだろう。

なぜだか、そう思った。 

「次の方、どうぞ」 

審査官の声がかかった。

ジョリーはウィンクをして前に進んでいった。

ヨーロッパで会おう。

そう心の中で答えた。

(続く)

 

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