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ヨーロッパ旅行小説と語学

欧州旅行の体験記を冒険小説風にしてみました。語学についてのあれこれも書いていきたいと思います。

第10話「空港セキュリティゲートの攻防」

<前回までのあらすじ>
世界の車窓に憧れて、ヨーロッパに旅に出た、元秘密営業部員の栗金団じゅんたろう。空港では元上司の放った刺客から様々な妨害を受けるが、すべて持ち前の機転とジョークで切り抜ける。そこで出会った元同僚のニコチーナ・ジョリーはとともに、持ち物保安検査に臨もうとしていた。

 

(ずいぶん高飛車な態度だな) 

男性検査員のぶっきらぼうな物言いと態度に、少しイラッとしながらも、私はことさらににこやかに対応し、 

「次は何をすれば?」 

と訊ねて差し上げた。 

「そこのゲートを潜ってください」 

相変わらず不愛想な表情で、保安検査職員は手荷物検査カウンターの横にあるゲートを手で示した。 

(きたな、この時が) 

私は瞬間、緊張した。

手荷物を検査するための台というかカウンター(ちょうどスーパーのレジチェックカウンターのようなものである)から少し離れた場所に、2メートル弱の高さのセキュリティゲートがあった。

映画やドラマなどでよく見る、玄関ドアの扉部分をくりぬいて、縁の骨格部分だけを置いたようなあれである。

ゲートにはある種の金属探査装置が仕掛けられていて、そこを潜ればその乗客が旅客機に持ち込んではいけない類の物を探知できる、というものだった。(10年以上前に経験したので、最近はまたシステムが変わっているのかもしれない) 

(あのときはこれでえらい目に合った・・) 

学生のときに北海道の千歳空港で経験した苦い思い出

あられもない罪を着せられて、あられもない格好で取り調べを受けて、あられもない声で「あーあー」ともだえ苦しんだあられもない苦渋のひととき・・

あられもないことをすれば見逃してくれると信じて、必死であられもない振りを披露してあられもなく悶えたのだが、結局ただただあられもなく赤っ恥をさらしただけだった。 

(演劇部に入っておくべきだった・・) 

懐かしい昔の出来事を思い出しながら、私は検査員の言うとおりにカウンターを離れて、ゲートの前に立った。 

「ではどうぞ」 

ゲートのそばに立った女性職員が、これまた冷たい声で私にゲートインを勧めた。

私はうむ、と頷くと、ゆっくりとゲートに足を踏み入れた。

 

「ブーッ、ブーッ」

 

途端に大音響があたりにこだまし、ゲートの上部にある赤いランプが点滅した。 

「何か金属のようなものをお持ちですか?」 

少し警戒したような顔つきで女性職員が私に訊ねてきた。 

「いや、何もないが」 

脇の下や股の下、シャツの中や髪の毛まで手を入れてまさぐってみたが、何もない。 

「ポケットの中に何か入れられてるのでは・・」 

私の行状を見て少し困った顔をしながら、女性職員は遠慮がちに聞いてきた。 

「ああ、そ、そ、そうだったね。ポケットの中を見るのを忘れていたよ」 

少し緊張していたのだろうか。

肝心のポケットをチェックするのを忘れていた。

ちらりと最初の検査員を見ると、さらに冷たい表情で私を見つめているのがわかった。 

「ああ、これかな?いや、これに違いないな!」 

そう言いながら、私は右ポケットの中からバナナの皮を取り出した。 

「これは・・」  

「見てのとおり、バナナの皮さ。さっきここに来る前に食べて皮を捨てるのを忘れてたんだよ。きっとこれが反応したんだろうな」 

「いえ、このゲートは金属にしか反応しませんので、バナナの皮は関係ないと思いますよ」 

少し警戒した顔つきで女性職員は私を見た。 

「そうかな?でもバナナには鉄分も含まれてるから、きっとそれが反応したんじゃないかな?あはははは」 

そういいながら、私は手に持ったバナナの皮をぶらぶらと振り回した。 

「その皮をこちらのカウンターの上に置いてください」 

黙っていた最初の若手男性検査員が、突然、会話に入り込んできた。

振り返ると、相変わらず冷たい顔をした検査員がこちらをじっと見つめていた。 

「これをカウンターに?冗談でしょ。これはただのバナナの・・」 

「いえ、いいんです。それはこちらで判断することですから」 

冷たい目と口元。

何物ものも信じない鉄の意志をビンビンに感じる。

これはかなり俺のことを警戒しているな、と思った。 

「そうかい。分かったよ。じゃあこれをそっちに置くね」 

ツカツカと検査カウンターの方に歩くと、バナナの皮をポンとその上に置いた。

カウンターの向こうに立っている検査員は、無言でそのバナナの皮を手袋を履いた手にとると、カウンター上にはめ込みで設置されたガラス張りのスキャナーにかざした。

とたんにカウンター上のランプもピコンピコンと赤く点滅し始めた。 

「やはり入ってますね、何かがこの皮の中に」 

カウンター上のモニターを凝視しながら、検査員は険しい表情でそう答えた。  

「すいませんが、もう一度ゲートを潜っていただけますか?」 

検査員はモニターから目を離さずに声をかけてきた。 

「・・・・わかったよ」 

私はしぶしぶ頷き、再びゲートに向かって歩き、中をくぐった。

 

 

「ブーッ!ブーッ!」

 

 

大音響が鳴り響いた。

心なしか一度目の時よりもブザーというか、サイレンの音が増しているように感じた。 

「なあ、これって音の調整がおかしいんじゃないか?」 

危険物を持ち込んでいる危険な男という風評被害を撤回するため、私はことさらに明るい声と表情で身振り手振りで女性職員に話しかけた。

しかし女性職員は、そんな私の心配を裏書きするかのように、私の問いには答えずに、先ほどよりもさらに緊張した面持ちでカウンターにいる検査員の方に駆けよっていき、何事か耳元ささやいていた。

検査員はモニターを見ながら、女性職員の言うことに黙って耳を傾けていたが、やがて頷いて、手元のスイッチらしきものを押しているのが見えた。

するとすぐにフロアの向こう側から、空港のセキュリティらしき集団がこちらに向かっているのが見えた。 

(やっちまったか) 

やがて話を終えた女性職員がこちらに戻ってくると、 

「大変申し訳ありませんが、もう一度、検査カウンターの上にポケットのものを出していただけますか?」 

と丁寧に聞いてきた。 

「どうやら疑われてるらしいね」 

と聞いたが、女性職員は何も答えず、ただカウンターの方向に手を示すのみだった。

私はあきらめ、まるでロッキード事件のときに検察に呼ばれてハイヤーから検察庁の建物のに入っていく田中角栄氏のように、顔を精一杯上げながら、堂々とした足取りでカウンターの方に歩いていった。 

「そこに」 

カウンターを手で示しながら、男性検査員は先ほどより強い視線で私を見た。

 

(いい目だ)

 

断固とした決意と覚悟を露にした目つき。

それはまさに「戦う男の眼」そのものだった。 

「分かりました」 

検査員の職務上の決意と覚悟に打たれた私は、以後は敬語で接することに決めた。 

「これが全てです」 

そういって、先ほどとは反対側のズボンのポケットから、もう一枚のバナナの皮を取り出した。

(続く)

 

次回の話&登場人物

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