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ヨーロッパ旅行小説と語学

欧州旅行の体験記を冒険小説風にしてみました。語学についてのあれこれも書いていきたいと思います。

第7話「空港にて」

ヨーロッパ旅行小説(旅立ち編)
<前回までのあらすじ>
秘密営業部員を退職して、世界の車窓に新たなライフステージを見出した栗金団じゅんたろう。すべてをなげうって旅に出たじゅんたろうの元に、組織を掌握しようと策を練る元上司が、次々と刺客を送り込んでくる。

 

エトランス正面の自動ドアを開き、中に入った。

いよいよ空港だ。

まだ日本国内だが、考えようによっては、すでにここは海外ともいえるのだ。

行きかう人の中に外国人の姿もちらほら見える。

今や街でも外国人の姿を見るのは日常茶飯事になったが、こうした場所で彼らを見るのは、普段の環境とはまた違った感覚を受けた。 

(さすがは国際空港だ) 

上を見上げ、右を見た後、左を見る姿は、まさに完全に「おのぼりさん」である。

個人的には都会生まれの都会育ちのシティボーイを自認しているのだけど、世界につながる空の港ではそんな地方都市での生まれ育ちなどまったく意味をなさなかった。 

(とりあえず、飯でも食うか) 

時計を見ると、16時すぎ。

飛行機の出発は18時30分。

30分前にチケットの確認やら搭乗準備やらを済ませるだろうことを考えれば、17時30分ぐらいにはすべての用意を終わらせておきたい。

それでもまだ一時間半は余裕があるので、早めの夕食を済ませることにした。

正面玄関前のエントランスホールに立っていたので、そこから少し進んだところにあるエスカレーターに向かった。

途中で柱のそばに空港案内パンフレットが置かれていたので、そのうちの一枚を取り、エスカレーターに乗りながら、フロアの様子を確認する。

航空会社のカウンターは4階と5階にあり、税関手続きや搭乗準備は5階フロアの奥に隣接しているようだった。

2~3階はレストランやおみやげ店になっており、とりあえず2階から順に見て回ることにした。 

(何を食べようか・・) 

手ごろな店を探しながら、ポケットにある財布取り出し、中身を確認した。

日本円で5万円ほどあった。

あとはトラベラーズチェックと、国際ATMカードが入っていた。

今回の旅では、万が一の盗難を用心してキャッシュカードは用意していなかったのだ。

代わりにトラベラーズチェックを20万円ほど身につけてある。

財布に5万円分、腹巻型のキャッシュバッグに5万円、手首と足首にそれぞれ残りの5万円分をアンクルバッグに入れて巻き付けていた。 

(用心深すぎると笑われたっけ) 

旅に出る前、街のロフトで買い物をしたときに、そのときについてきてもらった友人に、そう言って笑われたのだ。

その友人はすでに何度も一人で世界を飛び回っていて、すこぶる旅慣れており、今回の私のヨーロッパ旅行の指南役のような存在だった。

しかも友人は私に輪をかけて用心深いタイプに関わらず、逆に旅券と航空チケットだけしか持たずに、あとは現地調達ですべてをまかなったという猛者だったのだ。 

「何も持って行かなかったら、何も盗まれる心配はないだろう?」 

たしかにそうなんだが・・・と面食らったものだが、さすがにビギナーの私がそんな真似をできるはずはない。

とりあえず、可能な限りの防衛手段を試みることにしていた。 

「ははは。まあ初めてなんだから、仕方ないよね」 

笑いながら私の買い物につきあってくれた友人だが、もちろんそれ以外にも私にあれこれとアドバイスをしてくれた。

ちなみに彼も私と同じ会社(組織)に勤める「秘密営業部員」である。

もちろん私と違い「現役」のだ。

ある任務がきっかけで親しくなり、いつのまにか飲みに行ったりする仲になっていた。

ある日、たまたま趣味が旅だと聞いて、いろいろと話を聞いてるうちに、自分も同じようなことをしたくなったというのも、今回一人旅を決めた理由の一つでもあった。

「飛行機に乗る前は、あまりがっつり食べないほうがいいよ」 

そうアドバイスをしてくれたことも思い出した。 

「なぜだい?」 

「ハイジャックされたときに満腹だと動きづらいだろう?すきっ腹だと、隙を見て反撃したときに、かりに腹に銃撃を受けたとしても、ダメージは少なくて済むから」 

ニコニコ笑いながら、そんなことを言う友人を「おおお・・」と感心して見ていたものである。

かつて私が属した会社は一見、普通の民間企業ながら、実はその裏で様々な組織・団体・国家から請け負った秘密営業活動を行うことにあった。

様々な営業技が評価されて各方面からリクルートされてきた部員たちは、それぞれ独自のやり方で仕事を行っており、マーケティング(情報収集活動)を得意とした私はもっぱらその方面に従事していた。

一方、元格闘家の経歴を持ったマッチョな友人は、秘密破壊営業活動を得意としており、ミッションインポッシブルのイーサン・ハントばりのアクロバティックな営業作戦にも何度も成功を収めていたのだ。

なので、彼が余暇とはいえ、旅先で何度もハイジャックにあって、その都度生き延びてきたという話は真に迫っていたのである。 

(やっぱり軽く済ませるか・・) 

友人のアドバイスに従うことにした。

ハイジャックに合うことは、90%の確率でないとは思うのだけど、万が一あってしまった場合は、できるだけ空腹にして素早く逃げられるようにしておこうと思ったのだ。 

「いらっしゃいませ」 

2階フロアで目についたコンビニを見つけて中に入り、奥のコーナーでおにぎり2個と「お~いお茶」を持って、レジに持って行った。 

「400円になります」 

若い女性の店員が、スキャンした商品の金額をハキハキした声で伝えてきた。 

「これで」 

小銭がなかったので、一万円札を差し出した。 

「一万円をお預かりいたします」 

そう言って女性店員は札を受け取り、お釣りを渡そうとレジにてをかけたが、私は、 

「いや、釣りはいい。きみが受け取っておいてくれ」 

といって、手で制した。 

「そ、それは・・」 

困った顔で女性店員は私を見た。 

「代わりと言っちゃあなんだが」 

言いながら、私はトイレを指さした。 

「トイレを使わせてくれないか」 

店員はえっと驚いた顔でトイレと私とを交互に見た。 

「おトイレはご自由に使って頂いても構わないのですけど・・」 

「もう一つ・・」 

そういって、さらに財布から一万円を取り出し、女性店員の手に握らせた。 

「私がトイレに行ったあと、そのテーブルの下にある警報ベルを密かに鳴らしてくれないだろうか」 

「そ、それは」 

驚いた顔で私を見た。 

「いったい何なんですか?」 

「実はあそこにいる男がしつこくてね」 

そういいながら、コンビニの外をちらりと見た。 

「ほら、あそこに男が立っているだろう?あいつは俺のことがどうやら好きらしいんだ。いや俺はそういう趣味はないよ。あくまで一方的な思い込み、というやつでね。この一か月間、ずっと俺を付け回して気持ち悪いんだよ。海外に行くから大丈夫かなと思うんだが、どうやら奴もチケットを持っていて、俺を海外まで追いかけてくるつもりらしい」 

「ストーカーというやつですか?」 

女性店員は少し目を輝かせて話についてきた。 

「そうなんだよ。そこで君に頼みたいのが、俺がトイレに入ってる隙に空港の警備員を呼んでもらって、そのままやつを連行してほしいんだよ。なあに、警備員には俺から後で説明しておくから。君は単に変質者が店の外にいるか怖かったとか言えばいいさ」 

そういって、さらに一万円札をひらひらさせた。 

「連行してもらったら、さらにこいつを一枚追加しようと思うんだ」 

そういうと、女性店員はさらに目を輝かせて「分かりました」と頷いた。 

「オーケー。じゃあ行くね」 

そう言って、私は店の奥のトイレに入っていった。

扉をぱたんと閉じると、便座の上に座った。 

「ふう」 

息をついて、外の様子をうかがった。 

リムジンバスのあのスタッフだったな。やはり課長の犬か。よほど俺の動向が気になるらしい。停留所からここまでずっと付け回てくれてありがう。もう君の役割は終わったよ) 

しばらくすると、やがて人の怒鳴り声が鳴り響いた。

私は立ち上がって、トイレの扉を開けると、レジの女性店員を見た。

軽く頷いた女性店員は目線を自動ドアの外に投げた。

そこには初老の男が何かわめきながら、空港の警備員に取り押さえられている姿があった。

私は一万円を指に挟んでレジに向かうと、テーブルの上に置いて預けておいたお茶とおにぎりの入ったコンビニ袋を受け取った。 

「ありがとう」 

一万円札を女性店員に渡した。

店員はにこりと笑うと、ありがとうございました!と大きな声でお辞儀した。

ユーアーウェルカムと言ってウィンクすると、そのままドアを開けて外に出て、警備員に取り押さえられている男のほうに向かった。 

「警察にいきましょう!」 

「や、やめろ!俺は何もしていない!店の前に立っていただけじゃないか!」 

必死に言い訳している男の前まで来ると、私はとびっきりの金切り声で、 

「この人です!この人が私をずっと追いかけまわしてきたんです!へんたーい!」 

と両手を拳にして口の前をふさぐ仕草をした。 

「あなたは?」 

不審げな顔をして警備員が聞いてきた。 

 

「わたし、さっきコンビニにいて、店員さんに頼んで通報してもらったんですぅ。この人が私のことバス降りたときからずっと追いかけまわしてるって。きっと私のこと襲うつもりだったのよ。いやらしいわぁ!へんたい!いやーっ、こっち見ないでぇ!!!」 

 

涙目でそういうと、わーっと顔をふさいでそのまましゃがみこんだ。

そのときそっと目薬をポケットから取り出した。 

「あっ、あの、そういう事情でしたら、ぜひ警備員室で事情を聞かせて頂きたいんですが・・」 

 

「だめよ!わたし今から飛行機に乗らなきゃいけないんだから!ブタペストでオカマのダンスショーが待ってるの!だからお願い!その変態を捕まえて警察に突き出してちょうだい!!」 

 

顔を上げて涙でべとべとになった頬のまま、男をにらんだ。

男は唖然とした顔で私を見ていた。 

「いや、しかし・・」 

なおも訝しる警備員に、最後の決め台詞を放つことにしたのである。

 

「いいわ!いってやる!その人、私のパンツをリムジンバスに乗ってるときに盗んだのよ!だから私のズボンの下はスース―して寒いの!見てみる!?今すぐ私のズボンの下を見てみる???!!」

 

そう言って、その場でズボンを脱ごうとした私を見て、その場にいた警備員は一斉に止めに入った。 

「いえ、いいんです、いいんですよ!分かりました!そういうことでしたら、すぐに連行させてもらいますので!おいあんた!このひとの言ったことは本当なのか?」 

男は首を振ろうとしたら、私はすかさず指をさして、男のポケットを探すように言った。 

「その人のポケットを見て!私のパンツが入ってるから!」 

男はえ?という顔をしてポケットに手をやった。

するとすぐに蒼い顔をした。 

「お、おれは知らない!こんなもの今初めて見たよ!」 

男がポケットから取り出したのは、ゾウさんのイラストが描かれたアニマルトランクスだった。

 

「きゃぁーーっ!へんたぁぁぁーーい!」 

 

「おい、あんた!さっさと歩け!」 

「ちがう!ちがうんだ!」 

男の叫び声が遠ざかる中、私は冷静な顔をしてその姿を見送った。 

(バカが。俺があのとき何もしないでそのまま行くと思ったか) 

リムジンバスを降りた時に、すでに男の顔を見て課長の犬だと感じ取った私は、すれ違いざまにそっと男のポケットに替え用のパンツを入れておいたのだった。 

(お気に入りのパンツだったのだが・・・まあいい。ライオンさんはまだあるからな) 

警備員に連れられてエスカレーターの下に男の姿が見えなくなったのを確認し、私は振り返ってコンビニを見た。

女性店員が手を振って笑顔でこちらを見ているのが見えた。

(サンクス)

親指でグッジョブのサインを送り、軽くウィンクした。 

(さてと) 

視線を上りのエスカレーターに向けた。 

(邪魔者がいなくなったので、そろそろ搭乗の手続きにいくか) 

肩にかけたバッグをグッと後ろに下げた。

頬の涙はすっかり乾いていた。(続く)

 

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