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ヨーロッパ旅行小説と語学

欧州旅行の体験記を冒険小説風にしてみました。語学についてのあれこれも書いていきたいと思います。

第5話「旅のぎりぎり直前」

ヨーロッパ旅行小説(旅立ち編)
<前回までのあらすじ> 
世界の車窓に憧れて、ヨーロッパに旅立つことを決意した主人公、栗金団じゅんたろう。旅たちの日、空港に向かうじゅんたろうに、課長の手先である総務部の男たちが襲い掛かってきた。

 

私の指先圧力によって、再びベンチに座らされた総務部の男は、明らかに狼狽した目つきで私を見つめていた。 

「お前らのボス(課長)が企んでることはだいたいお見通しだ。会社をわがものにしたいんだろ?そしてそのことを知ってる人間を始末しようと動き始めた。俺もそのターゲットというやつなんだろうよ。だが俺はもう会社(組織)をやめてるので興味はない。好きにするがいいさ。あんたらのことはチクることはしないと、課長に伝えろ」 

そこまでいうと、私は「じゃあな」と言って踵を返そうとした。

 

「あの方はそんな小さなことをご心配なのではない」

 

「はぁ?」 

私は足を止めて、男の座っているベンチを振り返った。 

「あの方が心配されているのは、お前がヨーロッパに行って会ってはならないものに会うことをのみ恐れておられる」 

突然、男の口調が少年マンガに出てくる魔物の部下のような口ぶりになったことに驚きつつ、面白くなってきたので、軽く突っ込んでみることにした。 

「ほほう。ではあのお方は俺を怖がっているのではなく、ヨーロッパで会うだろう誰かのことを恐れてると。つまりはそういうことだな?」 

男は先ほどまでとは打って変わって、達観した透明な表情を浮かべて、私を見上げて言った。 

「あのお方の真意など、下々の我らに分かるはずもない。ただそのことのみ伝えられた」 

(なんなんだ、こいつらは) 

正直、だんだんとウザくなってきた。 

「あのお方とか、よく分からん事言ってるけど、まあとにかく俺はバスの搭乗時間があるから、このへんで失礼するよ。そうそう、もうこれ以上俺のことはかまうなよな。じゃあな。あのお方によろしく」

 手刀でグッバイの仕草をすると、私はさっさと階段のほうに向かっていった。 

と、そのとき。

 

「待ってもらおうか」

 

目の前を数人の男がふさいだ。 

「なんだ。俺を監視するだけじゃなかったの?」 

5人並ぶうちの真ん中にいる190センチ近い長身のスーツ姿の男(全員鼠色のスーツだが)が、ずいと前に出て来て、私の肩をグイと掴んだ。 

「指令が変わった。これから社まで同行してもらう」 

「ほほう」 

私の眼がキラリと光った。 

「人を無理やり連行させようってのは、この国では誘拐って犯罪になるんじゃなかったっけ?俺が大声で叫べば、駅員が飛んでくるぜ」 

「心配ない。もうすでに手は打ってある」 

男はあごを動かしてホームの端を示した。

その先には別の同じスーツ姿の男が一人、ホームの反対側の端のあたりで奇声を上げてズボンを下げて大便をしようとして、それを見た駅員に慌てて制止されている姿が見えた。 

「陽動作戦ってやつか。しかし子供じみた手だな」 

「誰も傷つかないベストな方法だ」 

そういうと、男は肩をつかんだ手をさらにグイと力を入れて、ホームの側に引っ張った。

私はホームの向かい側にあるビルの屋上のポールの上を見た。

そこには先ほどから同じカラスが一匹、ずっとこちらを見て止まっているのが見えた。 

(おっ) 

カラスの目がじっと私を見つめていた。

次第に何匹ものカラスが集まり始め、ホームの端に引っ張られようとしている私の動きを鋭く見つめているように思えた。 

(助けてくれるというのか) 

男は黙って肩を引っ張り続けた。 

私は頃合いを決め、男の足元にポケットから取り出したバナナの皮を落とした。 

「あっ!」 

声を上げて男は足を滑らせた。

途端に私の肩を掴んでいた強烈な力が緩まり、その一瞬を捉えて男の背中を思い切り後ろ側に引いてやった。 

「ステーン!」 

音を立てて地面に転ぶ男を見て血相を変えた、他の男たちが私の方に駆けよってきた。

だが、そのとき。 

「ぴーっ!」 

口笛を吹くと、向かいのポールの上にいるカラスの一群をこちらに呼び寄せた。

一匹のリーダー格を除いたすべてのカラスがホーム上に殺到し、男たちの身体をつつきにつつく。 

「ぎゃあっ!」 

見る見るうちにスーツはボロボロになっていき、最後にはほとんど上半身裸のような風体になった。 

「ぴーっ!」 

再び口笛を吹くと、カラスの攻撃は止まり、また先ほどのポールの上に戻っていった。

そこには先ほど私を見つめていた一匹のカラスの姿はいつのまにか消えていた。 

(カラスたちのボスだな) 

ふん、と鼻を鳴らすと、足元でカラスに襲われてボロボロになった男に向かって言った。 

「あんたらはペーペーの総務部員だから、営業部員の俺たちの業務がどんなものか具体的に把握してなかったように思えるね。あそこの主任さんと違って」 

ベンチを指さした。

すでのそこには先ほど話していた男はいなかった。 

「逃げたか」 

「なっ・・・なんなんだ・・あんたは一体?」 

「俺は秘密営業部員だ。いや、だった、か」 

「ひっ、秘密営業部・・そんなものが」 

「世の中にはそういう変わった職種がたまにあるんだよ。で、そういう変わった職種の関係者が集まって、陰でこそこそ色んなことやってたのが、たまたまうちの会社だったってことだけさ」

「・・・・・」 

詳しい業務内容を聞かされてなかったのか、その総務部の男は、ただただ唖然としていた。 

「とにかく、これがわが社の裏の稼業さ。だからさっきあんたらの主任さんには言ったんだけど、こんなどこの世界をとつながってるか分からん物騒な会社を乗っ取ったってロクなことはないぜって」 

「の、乗っ取る?」 

言い過ぎたか。

 「いいさ。今のは忘れてくれ」 

そういって、そのまま立ち上がった。

あたりはすっかり雑然としていた。

鳥の毛と背広の切れ端がホーム一体に広がり、まるで何かの解体をしたかのような様相を呈している。もちろんスーツ姿だった男たちはカラスに襲われて服をすべて失うだけでなく、体中をつつかれたせいか、皮膚とプライドをいたく傷つけられて、呆然と寝転んでいたり、なかには下着までもっていかれてしくしく泣いてるものまでいた。 

(これだけ騒然としていて、駅員とか乗客が一人もいないってのが、すごいな) 

ホームにあるはずの監視カメラも、カラスの仕業か、どれもレンズの上にべっとりと汚い糞がへばりついていた。

さらに先ほどホームの端で奇声を発して大便をもらそうと暴れていた総務部の男は、いまだ粘り強く任務を遂行していて、これ以上近づくと本気で糞するぞ!とすでに線路に向かって完ケツ状態で絶叫してるのを周りで駅員やら警官が必死で止めに入っていた。 

(お仕事ごくろうさんです・・・) 

私は軽く敬礼すると、ポケットからもう一本のバナナを取り出して皮をむき、かぶりついた。 

(間食としてもってきたのは正解だったな。いろんな意味で) 

バナナを齧りながら、階段を下りていった。(続く)

次回の話&登場人物

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